『ある無人駅に、今の時代1本50円で缶ジュースが売られている自販機がある』

そんな話を聞いてこの駅まで来てみた。都会の中にありながら本数が少なく、近くて遠い場所だ。お目当てのジュースは (けっして買う気はないのだけれど) 90円になってはいたが、何よりこの駅の存在に圧倒された。
ホームにぽつんと開いた穴のような出入り口から下におりると、瞬間はっきり空気が変わり、時代を超えるような感覚に息を呑む。無人駅のため駅員の姿はなく、ぽつんと置かれたSUIKAの端末が唯一、平成だと気づかせてくれる。むしろこの機械のほうが未来から来たのではと思えるほど徹底して昔のままといえる。御存知の方も多いと思うが、新横浜ラーメン博物館の地下にあるラーメン街のセットは、橋を渡って下へ下りるレイアウトになっている。その点この駅とよく似ている、少なからず影響を受けていると思われる。

詳しく出来た年代はわからないのだけれど(一説には昭和5年とも・・・)1949年の黒沢明作品『野良犬』のロケに使われたという記録もあるので、戦前からあるのかもしれない。かつて民間の鉄道路線であったのだけれど、国鉄、J.Rに引き継がれた後も赤字路線のためか、奇跡のように数十年経った今も細部に至るまで、そのままの姿で残っている。

この駅舎は逆凹型をしていて、上の写真でわかるとおり上部に電車が着くプラットホームがあり、その真下は突き抜けたトンネル、今まで見ていただいた写真のほとんどがこのトンネル内のもの。そして左右に2階建ての商店兼住居が長屋状に並ぶ。上の外観写真の手前が現在の国道15号だそうでトンネルを抜けた先にある細い路地が旧国道15号。この駅の名前の由来。

驚いた事に(失礼)この住居には現在もお住まいの方がいらっしゃる。商店も日曜の昼という事もありシャッターが下りてはいるものの、焼き鳥屋さんや釣り船屋さんなどは今も営業していると聞く。
一年中、一切日が射すことはないのだけれど、中央の通りには物干し竿を掛けられるように設えてあるあたり生活感がある。

ここを訪れてだいぶ経ったある日、関西にも同じ『国道駅』がある事を知った。やはり国道直近の駅でレイアウトも似ている。あちらは階段が外付け、券売機も露出のようだが、この駅は全てが建物の中に納まっている。

余談だが、表題、『残され駅』はアレキサンダー・ケイの小説『残され島の人々』を捩ってつけた。
最近有名な宮崎駿(だけではないが)によってNHKアニメーション化された『未来少年コナン』に登場する巨大都市の地下風景がこの建物にとてもよく似ているから。

元ネタとも言うべき、その宮崎駿が敬愛するポール・グリモーの 『王と鳥』 (旧邦題やぶにらみの暴君) に描かれた地下の町とも酷似する。

 

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